HPV ヒトパピローマウイルス 

韓国の思春期女性でのヒトパピローマウイルスワクチン接種と重篤な有害事象の関係について:全国的なコホート研究【論文紹介】

article

引用文献

Dongwon Yoon, et al. Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study. BMJ 2021;372:m4931

https://www.bmj.com/content/372/bmj.m4931.long

Abstract 要約の日本語訳

目的

韓国における思春期女性のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンと重篤な有害事象の関係を評価すること。

研究デザイン

コホート研究

設定

2017年1月から2019年9月の間に、韓国予防登録情報システムと国民健康情報データベースをリンクして作られた大規模データベース。

参加者

2017年にHPVワクチン接種を受けた11-14歳までの441,399人の女性。このうち、382,020人はHPVワクチン接種を受けており、59,379人はHPVワクチン接種を受けていなかった。

主なアウトカム基準

アウトカムは33個の重篤な有害事象で、内分泌・消化器・心血管・筋骨格・血液・皮膚・神経の疾患を含む。1次解析にはコホートデザインを、2次解析にはself-control risk interval デザインを用いた。どちらの解析でも、各々の結果についてHPVワクチン接種後1年のリスク期間を設けた。発症率と調整発症率の比はHPVワクチンを接種したグループとHPVワクチンを接種していないグループを比較した1次解析においてポアソン回帰分析をもちいて見積もられた。調整相対危険度は2次解析において条件付きロジスティック回帰分析をもちいて見積もられた。

結果

33個の事前に決められた重篤な有害事象の中で、コホート分析においてHPVワクチンとの関係が認められたのは片頭痛のリスク上昇だけであった(100,000人あたりの発症率:HPVワクチン接種グループ1235.0 対 HPV非接種グループ920.9; 調整危険度1.11, 95%信頼区間1.02-1.22)。self-control risk intervalを用いた2次解析では、片頭痛を含めて、HPVワクチン接種と重篤な有害事象の間に関連は確認されなかった。

考察

この全国的な50万回以上のHPVワクチン接種のコホート研究では、コホート解析とself-control risk interval解析の両方を用いることでHPVワクチン接種と重篤な有害事象のと関係性を支持する確証を見つけ出すことはなかった。片頭痛における矛盾した結果は、その病態生理と母集団を考慮して慎重に解釈する必要がある。

補足

この論文では以下の表にあるような、33種類の疾患についてHPVワクチンを接種したグループとHPVワクチンを接種していないグループで比較している。

ssociation between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in both the cohort and the self-controlled risk interval (SCRI) analyses among girls aged 11-14 years and vaccinated in South Korea in 2017

結果的に片頭痛(Migraine)だけ統計学的に有意にHPVワクチン接種後(2価と4価とも)に多いという結果となった。

ただし、本文のなかで、

“However, the lower limit of the 95% confidence interval was close to 1”

(日本語:しかし、95%信頼区間の下限値は1に近かった。)

と述べている。

これはどういう意図かというと、

統計学的にギリギリでHPVワクチン接種後に片頭痛が多くなると出てしまったんです!!」

と、著者は言いたいわけです。

そして、この有意差はコホート解析では出ましたが、self-control risk intervalでは出ませんでした。

この片頭痛については著者の考察は以下です。

・母集団の年齢が若干高いので(HPVワクチン接種群12.42歳 対 HPVワクチン非接種群11.84歳)、月経に関連する頭痛の可能性もあること(韓国の初潮年齢は平均12.7歳)

・オランダで行われたコホート研究では2価ワクチンによる片頭痛のリスクはなかったことをあげた上で、母集団の影響があったことやさらなる研究の必要性があること


そして、この論文の中で以下の文章がとっても個人的に印象的でしたね。

 “Our results are consistent with those of studies that have shown the safety of HPV vaccination in Western populations”

(日本語訳:私たちの結果は西洋の集団でのHPVワクチン接種の安全性を示した研究結果と一致している

つまり、

同じアジア諸国の日本に足を引っ張られて韓国の女性たちがHPVワクチンを接種しなくなることは意地でも避けたい!!!!

と、こういうメッセージを感じました。

もしかしたら、日本のHPVワクチン接種が進まないことは世界から遅れているどころか、世界の人々に多大なる迷惑をかけているのかもしれない・・・

まとめ

・韓国での50万回の接種を超える大規模な研究では、HPVワクチンは安全であると結論付けている。

・調査された33個の疾患のうち、片頭痛のみが統計学的にHPVワクチン接種後に多くなるという結果だったが、月経と関連した頭痛との関連も考えられるなど、今後のさらなる研究が必要。

・日本のHPVワクチンの積極的勧奨の差し止めは、世界的に迷惑なのかもしれない。